判例
東京高裁昭和39年6月30日 判タ164号173頁(要旨)
一般に不動産の買受希望者が売り物に出された同一物件につき互いに競争的立場においてその売買の仲介を取扱う複数の不動産取引業者に接触し、物件を下見した上、代金額その他の買受条件につき交渉したに止まる場合には、そのいずれが最も自己の意向に近い有利な条件を提示するかによって、仲介者を選択する事は、それが信義則に反しない限り自由になしうるところ、前記認定のとおり初期接触仲介業者(以下「業者A」という。)と後の接触仲介業者(以下「業者B」という。)とでは、買主が手許資金の都合上特に重視した売買手附金の額だけでなく、仲介手数料についても格段の相違があって、業者Aの提示する条件は買手たる買主の受け入れがたいものであったところから、買主が業者Aの媒介を利用せず、買主にとってより有利な業者Bの媒介の下に、売主との間に売買契約を成立せしめたのは、買手として誠に当然の事とせざるを得ない。そしてこの間買主側に別段信義に反する行為があったと認むべき資料はないので、右の結果業者Aが売買仲介の関係から外され、不利益を受ける事になっても、それは自己の努力によって他の仲介者と比べて買手により有利な条件の提供をなしえなかった廉(かど)注1によるものとして甘受すべきものである。
注1)廉(かど)=ある事柄の原因・理由となる点